本書は、家主側から退去を求めるときの実務書です。実際に起きたときは弁護士や管理会社に任せればいいのですが、オーナー様も知識として知っておいて損はありません。
著者は30年間で200件以上の明渡しを完了させたという弁護士さんで、本書の執筆にあたって225の判例を調べました。その結果で分かったのは「家主の正当事由を裁判所はたやすく認めない」という通説が間違いである、ということでした。立退き裁判では、「最高裁では8割」が「下級審でも7割」が正当事由を認めていたのです。ただ判例はほとんどが東京で、居住用より事業用が圧倒的に多いという特徴がありますが、だからといって立退き問題が東京の事業用物件で特に多いということではありません。実際に起きる立退き交渉には居住用も多いし、地域にも大きな差はないと思われますが、話し合いや裁判所の和解の勧告によって解決されているので判例として残っていない、ということのようです。都心の居住用や店舗事務所等の交渉は立退き料が高額になるので、和解が成立しにくいのですね。
家主が借主に立退きを求めることができるのは「借主に契約違反があるとき」と「家主に正当事由が認められるとき」です。借主に契約違反がなく、家主側の都合で退去を求めるときは、まず借主に対して契約解除を告げることから始まります。契約期間が決まっているときは契約満了の6ヶ月前までに「更新しない」と通知し、もし契約期間に定めがないときは、いつでも6ヶ月前に通知することになります。そして「話し合い」によって解決を目指すのですが、話し合いで解決できないときは、調停や裁判という手段が使われることになります。そのとき裁判では「家主の正当事由が認められるかどうか」が焦点となります。
裁判所が正当事由として最も重要視するのは「家主と借主のどちらの必要性が強いか」ということです。それ以外にも重視される要素はありますが、それらはやや付属的に考慮される傾向があり、さらに「立退料」が補完要素として登場します。もし家主の正当事由が認められるとしても、無条件ではなく「立退料の提供」が条件となることが多いのです。たとえば、「家主の自己使用」という理由で解約を希望した場合、一概(がい)に、「認められる」とか「認められない」というのではなく、裁判所は双方の事情を勘案して事案ごとに判断しています。もし認められるときでも、立退き料との引き換えが求められる事が多いのです。解約の理由が、「家主の身内が使用する」とか「家主の経済的理由による」とか「建物を解体して建て替える」ような場合でも同じです。225の判例から立退き交渉の現状を分かりやすく解説していますので、さらに詳しくお知りになりたいときは、ぜひご購読ください。

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