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経理社員には事務処理だけでなく「経理のプロ」として提案力を身につけていくことが求められている。
「経理のプロ」として企業活動を支援するとき、求められる能力が、効率仕事力、計数管理力、財務提案力、経営貢献力である。それぞれの能力が、企業全体のPDCAと密接に関わり、それらを支えている。
キャリアプランを考え、時間を確保して勉強及び勉強の実践に充てる。そして定期的に進捗状況を確認し軌道修正する。この継続がスキルアップにつながる。


経理PDCAでキャリアアップする
会社が経理に期待している4つのこと

経理事務員の人数は、2000年以降約100万人も減少している。その理由は、事務処理のコンピュータ化、経理業務のアウトソーシング、事務職の派遣・パート社員への転換。

職を失った経理事務員の多くは、単純なルーティン作業に従事していた傾向が見られる。

会社が経理に求めるのは、①生産性向上、②数字から見える異常検知と原因分析、③利益向上のための財務提案、④経営者の意思決定支援を実施すること。効率仕事力、計数管理力、財務提案力、経営貢献力のスキルである。

効率仕事力アップのPDCA~生産性の高い経理になる~
事務処理時間を短くする

仕事のスピードアップと作業時間の短縮を目標とする。次に事務作業工程の見直しと効率的なやり方を導入し、実行後の検証、さらに改善点を修正する。

具体的目標は「月次決算の早期化と事務処理時間の短縮」(P)。例えば月次決算を毎月5日までに報告する目標を掲げる場合、毎月5日に速報値、7日に確報値を出すスタイルで始めれば無理なく導入できる。決算の概算が少しでも早く出ていたほうが、経営者はすばやく対策を練れるので、スピードアップには大きな意味がある。また、エクセルの活用や帳票の統廃合で事務処理時間短縮を目標にする。

次に、目標実現のための行動を行う(D)。月次決算前倒しのために、待ち時間の解消、経費計上の省力化、チェック方法の見直しを行う。さらに、エクセルで、ミスの起こりにくい仕組みを導入して作業効率化を高める。

実行内容の検証のためには、例えば1カ月の事務作業時間を集計し、実行前と後でグラフにして比較すると分かりやすい(C)。

最後の改善段階では、作業のマニュアル化やエクセルツール共有など、作業の引継ぎを可能にするのがポイントだ(A)。画面イメージやイラストを中心に、動画マニュアルなども作成して、わかりやすくなるように工夫するといい。

計数管理力アップのPDCA~比率と変化で会社の状況をつかむ
3つの見方を理解して「会計の専門家」になる

計数管理力アップのために、収益構造分析、キャッシュフロー分析、財務分析の達成を目標に掲げる。これらをマスターするには、損益分岐点、キャッシュフロー計算書、財務指標の3つの見方の理解が必要。

損益分岐点の見方を確認する(D)。損益分岐点売上高とは、費用を固定費と変動費に分け、利益を出すために必要な売上高を算定する基準点を意味する。業務分析に積極的に活用したい考え方だ。固定費と変動費の振り分けに悩む費用は固定費に含めよう。収益構造把握のため、会計システムから月次損益推移表をエクセルに落とし、さらに固定費と変動費が分かる別シートを作り毎月更新されるよう計算式を組む。毎月の推移を損益分岐点グラフに反映させると数カ月先の損益状況の見積もりなどが可能になる。

次にキャッシュフロー計算書を確認する(D)。ここで注目すべきは営業キャッシュフローだ。営業キャッシュフローには「業績」部分と「取引条件」部分の2つの括りがあり、前者では利益要因によるキャッシュフロー増加分、後者では利益とキャッシュフローのズレをチェックすることになる。このズレは金額でなく期間に換算して管理すると把握しやすい。

外部の目線でも経営効率を確かめる

財務分析とは外部組織が企業評価に用いる手法。

投資家の判断基準は「投資対効果」である。これを表すのが総資本利益率(ROA)であり、総資本に対する「利回り」を確認する指標である。ROAを同業他社と比較し、自社の水準が利益率及び回転率どちらに起因するかを調査する。それによって他社との経営効率の差が明確化する。次に財務ツリー分析を活用し自社の過去(前期・前々期)との比較を行う。利回りや総資本回転率で変動があった部分を細分化し分析を掘り下げることで具体的な要因が把握可能だ。同様に、銀行、税務署の目線とやり方でも自社評価を行うとよい。

自分がどれだけ計数を理解したかどうかは、チェックリストにして確認してみるのがよいだろう(C)。また、ここに至るまで、どれだけ事務作業時間を減らし、計数管理に時間を使えるようになったかも、記録してグラフにしてみる。視覚化することで、周りにもアピールできる。

計数管理力アップでの改善ポイントは、分析のレベルを保つために「分析の型」をつくることだ(A)。各分析に使うエクセル表などを整理し、毎回使えるようにしておく。また、分析を重ねるにつれ、重要な指標や、細かく見るべき部分がわかってくるので、それらについて部内で話し合い、分析の精度を上げていこう。

財務提案力アップのPDCA~大事な数字をわかってもらう
「経理の視点」をアピールしていこう

経営者への財務プレゼンの準備をする
経営者が知りたいのは、利益の有無、資金の有無、異常の有無についてである。これらのポイントに焦点を当て効率よく伝えることが必要だ。基本的に経営者は説教を好まないため、事実を分かりやすく伝え、経営者自らが状況に気付くよう話を進めることが大切だ。説明する際には、初めに良い点を伝え、次に悪い点を伝える際に今後の対応など前向きな意見を引き出す方向に話を持っていくことが重要だ。

最後に業務部門への説明の仕方について考える(D)。会計数値は企業活動の「結果」であり、結果だけを提示しても実感が湧かない場合が多い。業務部門が理解しやすいよう「活動(プロセス)」を織り込んだ説明を意識しよう。販売個数や稼働時間といった、業務部門が日常使うデータと会計数値を関連づけて説明するのがお勧めだ。

「経理のプロ」としての成長の実現~持続的な発展のために~
キャリアアップのための目標設定

会社で必要とされる経理人材になるために、3年後を見据えたスキルアップの目標設定をしよう。具体的には業績管理及び予算編成を任されることを目標にしたい。3年後の目標が定まれば、逆算して1年後、2年後の目標設定を行う。

①スキルアップのための時間を作る、②テーマを決めて集中的に学ぶ、③勉強内容を実務に生かす、この3つは「経理のプロ」になる人達が日常実践していることだ。時間を確保したら、管理会計や財務分析といった専門知識を習得し、勉強した内容を自社データで検証するなど実務を通じて身につけていく姿勢が求められる。