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利益が増えても会社のお金が増えるとは限らない。お金が増えるように利益を増やすことが大切だ。
利益を伸ばすカギは限界利益にある。利益は限界利益と固定費のバランスで決まる。
売上は単価×数量×頻度で表せる。単価は特に重要で、その決め方が経営を左右することもある。
会社の財務体質を強くするためには節税をしてはならない。税金は経費と捉えるべきだ。

売上より大事なもの
新米社長、経営のイロハを学ぶ
兄の会社を継いで新会社を設立後、黒字再建するまで、その間はわずか4年。資金が底を尽き、一時は金融機関から全く相手にされなくなった。そんな状態の会社が、2億5000万の現預金を保有する超優良企業である。

売上が伸びても利益が伸びるとは限らない。なぜなら売上と利益は全く異なるものだからだ。利益が増えてもお金が増えるとは限らない。お金は増やそうとしなければ、増えるものではない。重要なのは、お金が増えるように利益を伸ばすことだ。

最初の修行は会計ソフトへの入力
当初、会社にお金がないのは明白だった。自身が経理を担当することになった。

遼は請求書や領収書とにらめっこしながら、会計入力を行っていく。「燃料費ってこんなにかかるのか」「近くまで行くのに高速を使っているな」「この得意先は入金サイクルが150日もあるのか」「コピー用紙を買いすぎだろう」。こうしたつぶやきは、社員をそわそわさせた。

遼は経理を通じて、会社のお金の流れをつかむことができた。だがまだ本質的な問題解決には至っていない。会社のお金を増やすにはどうすればいいのか。櫻田曰く、大切なのは、売上と入金、費用と支払は全く違うものだということを理解しておくことだ。

売上を伸ばしても、必ずしも利益が増えるとは限らない。逆に赤字になることさえある。利益を伸ばすカギとなるのは売上ではなく、実は限界利益なのだ。

限界利益とは、売上高から売上原価(変動費)を引いたもの。固定費を引けば利益となる。限界利益が固定費を上回れば会社は黒字になる。会社の利益は限界利益と固定費の関係で決まる。このことをわかっていないと、悲惨な結果を招いてしまう。

活用する資料が意思決定を狂わせる
全部原価法の落とし穴
会社を経営するなかで遼が気になったのは、得意先別あるいは商品別にどれだけの儲けが出ているかだった。遼は損益表を自分なりに作成した。ところが、櫻田は、得意先別や商品別の損益を計算しても役に立たないという。なぜなら、遼が作成した損益表は、全部原価法で作成されていたからだ。

たとえば、燃料費を運送原価に含んでいたとする。もし敷地内にミニガソリンスタンドがある会社なら、未使用の燃料が在庫として計上されることになる。その結果、売上総利益にこの在庫が加味され、実態以上に利益を押し上げてしまうことがある。そもそも全部原価法は税金計算のためのものであり、経営判断に適したものではないのだ。

損益計算書の落とし穴
損益計算書も同様に、経営判断の資料としてはふさわしいものではない。なぜなら、損益計算書が引き算だけで作成されているからだ。具体的には、売上から原価、販売管理費を引いて営業利益を算出し、そこに営業外収支を加味して経常利益を算出する。そうすると、最後の利益を増やすためには、表の一番上にある売上を増やすか、引き算の対象となる原価や固定費を減らすという発想しか出てこない。それでは利益を増やす効果的な方法は見つけられない。

では、どのような資料が経営に適しているのだろうか。それは、数量比例の科目だけを変動費として計算している損益計算書である。固定費を配賦せず、得意先別の一ルートあたりの単価と変動費を数量比例で作成した表であれば、利益に至るまでのプロセスが目に見えてわかる。そこで必要な情報は次の4つである。「一商品あたり販売単価」「一商品あたり変動費」「一商品あたり限界利益」「販売数量」だ。

値決めが利益を決める

外注するときの単価は、慎重に決めなければならない。原価計算で外注単価を決定している会社もある。実際には、原価計算自体が簡単ではなく、利益を出すことができていない会社が多いのが現実だ。「値決め」というのはそれほどまでに難しいものであり、販売単価と同様に利益の源泉となる、非常に重要なものなのだ。

売上の計算式は、「売上=単価×数量×頻度」で表せる。ここで単価を誤ると、販売数量が多くてもそれほど利益が出ないおそれがある。逆に単価が高すぎて、数量が減ってしまうかもしれない。重要なのは、仕事や商品の価値を正確に算出し、単価と数量の積が最大値になる一点を求めることである。

黒字再建への道
赤字にならない体質づくり
では会社を経営するうえで大切なことは何だろうか。利益を出すことはもちろん大切だが、それ以上に大切なのは赤字にならない体質づくりである。「体質」とは、会社の癖や風土、慣習、文化のようなものと捉えればいい。赤字に陥らないよう、普段から限界利益と固定費の両方を意識できる組織にするということだ。また、限界利益が固定費を下回らない取り組みと、固定費が限界利益を上回らない取り組みは、同じではない。

限界利益の観点から注意すべき点は、一つの得意先や仕事から大きな限界利益を生み出しすぎずに分散することだ。何とかして単価を上げること。単価を上げるのは容易ではない。しかし、苦労してそれに成功した会社だけが、苦労に見合った利益を手にすることができる。

一方、固定費を増やさない取り組みは、勘定科目で固定費予算を立てることではない。会社のビジネスプロセスから、今後どのような業務が増えそうかを予想し、どの勘定科目にどれくらい影響を与えそうかを検討することだ。得意先別または商品別に限界利益と固定費の増加予測を立て、限界利益の増加分が多くなるように管理しなければならない。

税金は経費と心得る

世の中の多くの経営者は、いかに節税するかに心を砕く。売上から順に経費を差し引く損益計算書を見ていれば、そう考えてしまうのも仕方がないのかもしれない。だが、経費を増やして節税するより、税引後当期利益を黒字化することのほうが、会社経営においてははるかに重要だ。

経営でめざすべきは、税金を経費と捉えて税引後当期利益を毎年計上すること。そうすれば自己資本を増やせる。高い自己資本比率は会社を強くする。すると、財務体質が健全になり、会社は倒産しにくくなる。節税しすぎて会社が潰れることはあっても、納税しすぎて潰れた会社はまずない。

ただし、自己資本比率に固執しすぎてはいけない。税引後当期利益を黒字にして、お金を会社に残すことが第一だ。

そもそも税金は、日本の未来をつくるお金でもある。税金が減るということは、日本の将来を支える原資が減るということになる。経営理念で「社会貢献」を謳っておいて、税金は払いたくないというのはおかしな話だ。税金を納めることこそ社会貢献の最たるものである。

節税効果の話
節税の知られざる実体
会社の財務体質を強くするために、節税はすべきではない。しかし、多くの経営者は、「納税するくらいなら節税したほうがいい」と考え、生命保険などに手を出してしまう。

節税の手段として最も一般的な生命保険をはじめ、節税にはお金の支出が必須である。お金を支出せずに節税をするなどあり得ない。つまり、節税をすればするほど、会社のお金は流出する。この実体を包み隠すために、保険会社は「節税効果」といっているのだ。生命保険は、支払ったお金の全額が戻ってくることは絶対にない。戻ってくるときには必ずお金は減っている。

さらには、保険を解約すると、解約返戻金は雑収入の扱いとなり、場合によっては課税対象になることもある。支払ったときより少ないお金が手元に戻り、その上に雑収入として課税される。この可能性を考えると、節税の実体は「資金の社外流出」といえよう。節税を求めすぎるとお金のない会社になり、自己資本比率を下げてしまうことになる。

内部留保により自己資本を厚くするのは、一朝一夕にはできないことである。いつ何があっても対処できるほどの余剰資金を持っておくには、目先のお金ではなく、将来を見据えたお金の持ち方を考えなければならないのだ。