「(組織や社会に対して)貢献している」「何かの役に立っている」と感じている人は、メンタルヘルスの状態が良い。
部下が上司の成果を上げることに焦点を当てて支援してこそ、部下自身も働きやすくなり成果を出せる。
企業内で異なる文化が衝突したときには、相手の価値観を認め、相手の気持ちを意識することが、絆を紡ぐ鍵となる。


憧れの仕事に失望して
完璧主義があだに【事例】


自分に向いている仕事を見つけるには時間がかかる
希望する会社に入り、希望する職種に就いたからといって、全てがうまくいくわけではない。ドラッカーは「最初の仕事はくじ引きである。最初から適した仕事につく確率は高くない。しかも、得るべきところを知り、自分に向いた仕事に移れるようになるには数年を要する」(『非営利組織の経営』)という言葉を残している。

社会人になると、誰もが自分と社会の現実を目の当たりにする。そんな経験を重ねながら自分ができることを知り、それを社会に生かせるようになるには時間がかかる。最初は向き不向きを考えすぎるより、「この仕事で何かを得てやろう」というくらいで良いのではないだろうか。

貢献感とメンタルヘルスの深い関係
また、ドラッカーは「貢献に焦点を合わせることが、(中略)成果をあげる鍵である」(『経営者の条件』)とも述べている。貢献とは、仕事で個人の自己実現を促進し、組織や社会に対して成果を生み出す行動を指している。「貢献」に関連した最近の研究でも、「貢献している」「何かの役に立っている」と感じている人は、メンタルヘルスの状態が良いという結果が出ている。

「できない上司」の憂鬱
技術力で部下に劣り、軽んじられる【事例】

上司をマネジメントする

「心の病の最も多い年齢層」は40代。40代になると、管理職などリーダー的な役割を担うことも多くなる。が、IT(情報技術)の活用や業務の専門特化などで仕事の仕方が激変するなか、専門知識や合理的手順において部下が上司を上回ることも増えた。部下が理想の上司像を勝手につくり、その姿を要求してしまうこともある。

ドラッカーは上司部下の関係について「現実は企業ドラマとは違う。部下が無能な上司を倒し、乗り越えて地位を得るなどということは起こらない。上司が昇進できなければ、部下はその上司の後ろで立ち往生するだけである」(『経営者の条件』)と語っている。

どのようにすれば、状況を改善できるのか。ドラッカーは次のように表現している。「上司の強みを生かすことは部下自身が成果をあげる鍵である」(『経営者の条件』)。部下は上司の強みを積極的に見つけ、上司の考えを知ろうと努めるとよい。部下が上司の成果を上げることに焦点を当てて支援してこそ、自分も働きやすくなり成果も出せるようになるのだ。

上司に恥をかかせない
ドラッカーは『未来企業』で「上司を不意打ちから守る」ことを説いた。「喜ばしい不意打ちからさえも上司を守ることが、部下たる者の仕事である。組織の中にあっては、自分に責任のあることについて、不意打ちに合わされることは、自尊心を傷つけられ、通常は、公に恥をかかされるということである」。

そのためは、今や古い時代のものと思われるかもしれないが、「報連相(報告・連絡・相談)」はやはり重要だ。幸い、以前と比べて情報共有のツールはどんどん増えている。上司もまた、部下の報連相を受け止めて自分の考え方や行動を見直すことで、部下と上司は「共に成長」することができる。

コミュニーションの勘違い
「何度も言っているのに、なぜ分からないんだ」【事例】

コミュニケーションの四原則

コミュニケーションの四原則として「知覚であり、期待であり、要求であり、情報ではない」としている。 確かに情報伝達は必要だが、ドラッカーによれば「情報に人間はいない」。コミュニケーションは、何よりも心を通じ合わせるプロセスなのだ。

「聴く」ことの大切さ

ドラッカーの四原則を踏まえ、上司からできるコミュニケーションの工夫を幾つか挙げてみる。1つ目は、「君はそれでやれそうか?」「あなたはどう感じる?」と相手を主語にして質問をすること。2つ目に「どうするのがいいと思う?」と意見を求めること。3つ目に「分かったか」ではなく「分からないところはあるかい?」と相手が質問しやすい尋ね方をすること。さらに、「目を見て挨拶」をすることから始め、部下との信頼関係をじっくり築いていく。

コミュニケーションは情報提供や指示以上に、相手の話を「聴く」ことがベースになっている。「傾聴を意識して行うと、上司から支援してもらえているという感覚が増した」という研究もあるという。
M&Aとメンタルヘルス
文化の違いに戸惑う部長【事例】

M&Aをはじめとする「異文化の衝突」が顕在化する現代

価値観を認め、感情を意識する
ドラッカーは「多様性が要求するものは統一ではない。絆である」